著明な建築家やアーティストが参加する「パビリオン・トウキョウ2021」というアートイベントが開催されていました。新国立競技場を中心とした複数の会場に建物やオブジェが設置されており、それを自由に巡ることができます。
普段の何気ない街の風景の中に、突如現れる建物やオブジェなどのアート作品が、“少し違和感を覚える新しい街の風景”として映る、そんな不思議なアートイベントです。これから数回にわたって巡ってきた会場を写真と共に紹介していきたいと思います。 


石上純也 「木陰雲」

ひとつめは、建築家 石上純也によるアート作品です。

焼き杉の構造体で庭園上部を覆い隠し、夏の強い日差しと周囲の高層建築を遮る空間を作ることで、庭園を訪れた人々は古い邸宅ができたころに流れていた時間を過ごすことができるというコンセプトの作品です。

会場となる九段ハウスは、実業家の山口萬吉によって1927年に私邸として建築された古いスパニッシュ様式の邸宅で、現在は会員制ビジネスイノベーション拠点として利用されています。邸宅の計画には、東京タワーの構造計画をおこなった内藤多仲など、当時の名立たる建築家や工芸家が多く参加していたようです。  

作品である構造体は焼き杉を採用することで、新築ながらも風化したような見た目の仕上がりになっていて、古い邸宅の景観と合うように、あえてこのような手法を取り入れているとのことでした。焼き杉とは、関西以西で使用される杉板の表面を焼き焦がすことで、炭素層を人工的に形成し、板の劣化を遅らせることを目的とした伝統技法です。

敷地の半分ほどを占める庭園は、こじんまりとしながらも都会の喧騒からは隔離されたような自然豊かな庭です。作品は庭の木々と一体化して見え、都心に在りながらも、まるで森のような空間が広がっていました。

訪れた日は、曇天で庭園は薄暗く最初は鬱蒼とした感じでしたが、時折雲間から差し込むと、途端に光が程よく遮られ、木々の緑を明るく照らす空間が広がります。こう写真で観ると、どれが自然の木でどれが焼き杉の構造体かわからないくらいです。

歴史的に価値のある建築物を庭園の自然を体感できる、散歩の途中で立ち寄るのにちょうど良い作品でした。

次回は浜離宮恩賜庭園に設置されたアート作品を巡ります。